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raskiのマジックとミステリの部屋

raskiのマジックとミステリの部屋

ちょっとだけマジックが出る本


マジックとは何の関係もないのだけれど、マジック、マジシャンが登場する本(主に小説)を紹介したいと思います。外国のものに偏っているのは、私が外国かぶれだからかもしれません。あしからず。特に狙って本を探しているわけでもないので、かなり不定期更新になります。

『エミール』(上) JJ ルソー  今野一雄訳 岩波文庫
 いわずと知れた、教育思想の古典です。マジックとは何の関係もありません。

 遥か昔に日記に書いた気がしますが、ねたが少ないのでここにも書かせてもらいます。演じられている奇術は、作り物のアヒルをえさで操るというもの。これは市場のシーンですから、こういったものは日常のものだったのでしょうか?これは創作のシーンにしても、当時の奇術とその状況を見るようでちょっと面白い。種明かしの戒めや、奇術の科学性なども読み取ることができます。あるいは『演劇について』を書いているほどですから、この手のことに詳しかったのかもしれません。(勝手な推測です)


『不思議な少年』 マーク・トウェイン 中野好夫訳 岩波書店
 ここまでくると、無理やりな感じもしますが、そのようなことを気にしてはいけません。不思議な少年=手品師ではもちろんありません。不思議な少年の前で、道化役を演じる羽目になったのが手品師でした。

 その手品師が演じていたのは、まいた種が一瞬にして成長するいわゆる『マンゴー樹の奇跡』というものです。しかし、不思議な少年は、ほんとの魔法の力で現象を起こしてしまうのです。少し後味の悪い作品かもしれません。

『聊斎志異』(上)蒲松齢 立間祥介訳 岩波文庫
 せっかく東洋史を専攻にしているので、これも載せておきましょう。清代の人、蒲松齢が話を集めて書いた短編小説です。

 登場している奇術は、ヒンズーロープそのもの。ロープが天まで昇っていき、それを人が登るというもの。本当にある奇術かどうかはわかりませんが、岡田康彦の『手品のトリックアイデア集』には一応の種明かしがされています。けれども、挿絵を見たところこのトリックが使える環境ではありませんでした。

 さらにこの後、ばらばらになった子供を復活させる!!という芸当までやってしまうのですから、創作の奇術としか考えられません。
 この本は、怖い話ではなく、不思議な話です。歴史や文化にもちょっと触れることができます。

『シャーロック・ホームズの思い出』コナン・ドイル 延原謙訳 新潮文庫
 これはさすがに苦しい。なんせ、手品師と言う単語が数回出てくるだけですから。二酸化炭素のボンベで呼吸したほうがまだましと言うものです。手品師に関しては、動物を操る奇術を行ったという記述しかありません。

 しかし内容はさすがです。よくこんなに奇妙な事件をたくさん考えられるものだと思わずにいられません。作品そのものがひとつのマジックを形成しているといってもいいでしょう。

 お客さんを見ただけで、素性を明らかにしてしまうあの能力は、メンタリストならずとも、欲するところかもしれません。

世界図絵』 コメニウス 井ノ口淳三訳 平凡社
 コメニウス、現地語でコメンスキー(1592-1670)はチェコスロヴァキアの教育思想家。そのほかには、『大教授学』。
 その著、『世界図絵』は最初の絵つき教科書とされています。この本は、神、自然、人間の営みなど森羅万象を絵によって解説しているものです。その中の131番目で奇術師を紹介しています。その解説文章は、「奇術師は財布を使った奇術をしています」という1文です。

 しかしながら、その実態が何の記述をさしているかはよくわかりませんでした。なんか、カップ・アンド・ボールをやっているようにも見えます。財布に移動するカードなんて17世紀中ごろにあったのかしら?

 マジックの本でも、絵に助けられることがあると思います。たまには変なアプローチで読んでみるのもよいかもしれません。もちろん教育学、もしくは中世・近世の歴史・文化に興味のある人にも。

『ピーター卿の事件簿』 ドロシー・L・セイヤーズ 宇野利泰訳 創元社
 シャーロック・ホームズのライバルの一人、ピーター・ウィムジー卿の活躍を描いた短編集。幽霊話を初めとして、ホームズもの以上に奇妙な話が多く登場します。推理ものであり、怪奇ものとしても読めます。

 マジックが出てくるのは、「ピーター・ウィムジー卿の奇怪な失踪」というタイトルの作品です。ミステリーということで、筋に踏み込むわけには行かないので出てくるマジックだけ書くことにします。

 出てきたものは、空中からコインを取り出すマジック(マイザーズ・ドリームだろうか)、増えるボール(4つ玉であろう)、などです。本文では、「撞球用の球」と訳されていましたから、原文では、ビリヤード・ボールとなっていたのでしょう。ビリヤードボールのマジックとは、(主に)赤いボールが出たり、消えたり、増えたりするというマジックの事を指します。

 マジシャンはストーリーの中で重要な役割を担っています。

シャーロック・ホームズのライヴァルたち(1)』押川曠編
 19世紀初頭の名探偵の活躍を収めたアンソロジーです。ハリファックス博士とかへムロック・ジョーンズとかタイラー・タットロックといったレアな探偵たちの冒険譚が集められています。

 マジックに関係しているのは、クレー大佐の活躍する「メキシコの予言者」と、ジャギンズ氏が活躍する「消えたダイヤモンド」です。

 前者では、相手の情報を読み取るトリック、財布の中を透視するトリック、腕に予言のメッセージが現れるトリックなどが演じられています。もちろんマジック解説書ではありませんから種明かしはしてありません。(正確に言うと、種は明かされて入るのですが、実用的では・・。)マジックのトリックでもあり、いんちき超能力者が好んで使うトリックでもあります。

 後者では、カードを自由自在に操り、機械的トリックやからくりの達人である手品師が登場します。1898年ですから、『モダン・マジック』が出てからしばらくたってのことです。

 マジックとは関係しませんが、私のお勧めは・・・。
質屋のヘイガー・・・・奇妙な始まりと、意外な結末でホームズ譚のライヴァルにふさわしい。

正義の3人・・・・・とんでもない(かな?)アリバイトリック。

ノヴェンバー・ジョン・・・ホームズの18番、足跡に基づく推理を展開。
 
不可能犯罪捜査課』ディクスン・カー 宇野利泰訳
 不可能犯罪や密室などのミステリーを多く描いたディクスン・カーの短編集です。一部これは無理だろうと思えるようなトリックもないわけではありませんが、犯行不可能な場面設定、恐怖感を生み出す状況など短編のよさを生かした作品集です。

 ここで出てくるマジックは、ストダー大佐が演じた、「スフィンクス」というマジックです。首だけの人間が登場するというマジックで、不可能犯罪との取り合わせにはこの上なくよいものです。名前だけですが、マスケリンも出てきます。

 マジックが直接出てこない作品でも、不可能犯罪ですからマジック的な興味をそそられることは請け合いです。

『三大陸周遊記』(もしくは『大旅行記』)イブン・バットゥータ、東洋文庫
 
 歴史の授業で聞いたことがあるかもしれません。イブン・バットゥータは14世紀に活躍したモロッコ出身の旅行家で、イスラームの人物です。

 この本ではいわゆる「インディアン・ロープ・トリック」(ヒンズーロープ)というマジックを「実際に見た」という紹介がなされています。見せてくれたのは元朝のハンです。奇術師が紐玉を空中に投げると、するすると登っていき見えなくなる。そしてそこを奇術師の弟子が登っていき、上までついたと思ったらばらばらになって振ってくる・・・というものです。

 それを見たバットゥータは気絶した。もしバットゥータが本当にまたのだとすると、そこに奇術への不慣れさが感じられ、「イスラーム世界」(この言い方は適切か?)の奇術についてなにかを示唆しているようにも思えます。ちなみに『聊斎志異』の中国の人は気絶していなかった。慣れていたのか??

 ほかに、バットゥータはインドのトゥグルク朝(イスラーム王朝)でもこの奇術を見たとのこと。どこからどう伝わったのかは今の私は知りません。(洋書で参考文献があるがあいにく未読。いつか読むだろう。)

 ちなみにこの本については2007年9月11日の私のブログでも紹介しています。あわせてお読みくだされば幸いです。


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